Story of a day

日常をストーリーに

今日は今日の風が吹く

季節が巡り、周りの景色が変わり始めると、旅立ちの合図がどこからともなくやってくる。

 

常に揺れ動いている風のカラダはふわりと持ち上がり、南へ、東へ、西へ、そして北へと飛び立っていくのだ。

 

そうして辿り着いた場所で、一つの季節を過ごす。

 

「風はいいね。色々な場所へ行けて」

 

山が風に言う。

 

「まあね。ぼくは今まで沢山の景色と沢山の友達に巡り合ったよ」

 

風はふふんと胸をはる。

 

「風はいいね。自由で」

 

川が風にささやく。

 

「まあね。ぼくは空高く飛びまわれるからね」

 

風はそうやって空を指し示す。

 

鳥の群れが頭上を渡っていく。

 

「そろそろお別れみたいだね」

 

この冬すっかり仲良くなったもみの木が、寂しそうにカラダを揺らした。

 

風は小さく俯いた。

 

カラダがふわっと浮き上がるのを感じる。

 

行き先も、行く時も、決められずに、ただ流れに身を任せる。

 

「お元気で!」

 

「素敵な出会いを!」

 

「さようなら!」

 

「さようなら!」

 

仲間たちの声がどんどん遠ざかっていく。

 

風は飛んでいく。

 

新たな土地へと。

 

空高く、誰よりも身軽に。